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東京地方裁判所 平成4年(ワ)22712号 判決 1994年10月13日

主文

一  第一及び第二事件原告の訴えをいずれも却下する。

二  第三事件被告と第三事件原告との間において、第三事件原告が別紙物件目録記載の一の土地について、普通建物所有を目的とする賃貸借期間平成三〇年六月六日、賃料一か月金三万五〇〇〇円、賃料毎月二〇日支払の約定による賃借権を有することを確認する。

三  訴訟費用は、第一及び第二事件については第一及び第二事件原告の負担とし、第三事件については第三事件被告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

(第一事件)

一  請求の趣旨

1 第一事件被告と第一事件原告との間において、第一事件原告が別紙物件目録記載の一の土地について、普通建物所有を目的とする賃貸借期間平成三〇年六月六日、賃料一か月金三万五〇〇〇円、賃料毎月二〇日支払の約定による賃借権を有することを確認する。

2 訴訟費用は第一事件被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

1 第一事件原告の請求を棄却する。

2 訴訟費用は第一事件原告の負担とする。

(第二事件)

一  請求の趣旨

1 第二事件被告らと第二事件原告との間において、第二事件原告が別紙物件目録記載の一の土地について、普通建物所有を目的とする賃貸借期間平成三〇年六月六日、賃料一か月金三万五〇〇〇円、賃料毎月二〇日支払の約定による賃借権を有することを確認する。

2 訴訟費用は第二事件被告らの負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

1 第二事件原告の請求を棄却する。

2 訴訟費用は第二事件原告の負担とする。

(第三事件)

一  請求の趣旨

1 第三事件被告と第三事件原告との間において、第三事件原告が別紙物件目録記載の一の土地について、普通建物所有を目的とする賃貸借期間平成三〇年六月六日、賃料一か月金三万五〇〇〇円、賃料毎月二〇日支払の約定による賃借権を有することを確認する。

2 訴訟費用は第三事件被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

1 第三事件原告の請求を棄却する。

2 訴訟費用は第三事件原告の負担とする。

第二  当事者の主張

(第一事件)

一  請求原因

1 別紙物件目録記載の一の土地(以下「本件土地」という。)は、訴外笹川賢雄(以下「訴外賢雄」という。)の所有であった。

2(一) 訴外賢雄と第一ないし第三事件原告(以下「原告」という。)は、昭和六三年六月六日、本件土地を目的として、訴外賢雄を貸主、原告を借主とする次の内容の賃貸借契約を締結した。

(1) 使用目的 普通建物所有

(2) 期間 定めず

(3) 賃料及び支払方法 毎月二〇日限り金二万円を支払う

(二) 訴外賢雄と原告は、平成二年一一月八日、右賃貸借契約の期間を昭和六三年六月六日から三〇年間とする旨合意した。

(三) 訴外賢雄と原告は、右賃貸借契約の賃料を平成二年一一月八日から一か月金三万円に、平成三年五月から一か月金三万五〇〇〇円にする旨それぞれ合意した(以下、賃料が一か月金三万五〇〇〇円となった後の右賃貸借契約を「本件賃貸借契約」という。)。

3 平成三年七月三日、訴外賢雄が死亡し、訴外賢雄の相続人は、原告、第一事件被告(以下「被告博美」という。)、第二事件被告笹川賢一(以下「被告賢一」という。)及び同山岸由美子(以下「被告由美子」という。)である。

4 被告博美は、本件賃貸借契約を否定している。

5 よって、原告は、被告博美に対し、本件賃貸借契約確認の判決を求める。

二  請求原因に対する認否

1 請求原因1の事実は認める。

2(一) 請求原因2の(一)及び(二)の事実は不知。

(二) 同(三)の事実は否認する。

3 請求原因3の事実は認める。

訴外賢雄は、公正証書遺言をしており、右遺言には遺言執行者として笹川博美が指定されているから、本件において、当事者適格を有するのは、遺言執行者としての笹川博美であり、個人としての被告博美、被告賢一、被告由美子ではない。

4 請求原因4は争う。

(第二事件)

一  請求原因

1 第一事件の1ないし3と同じ

2 被告賢一、被告由美子は、本件賃貸借契約を認めていない。

3 よって、原告は、被告賢一及び被告由美子に対し、本件賃貸借契約確認の判決を求める。

二  請求原因に対する認否

1 請求原因1の認否は、第一事件の請求原因に対する認否の1ないし3と同じ

2 請求原因2の事実は認める。

(第三事件)

一  請求原因

1 第一事件の1及び2と同じ

2 平成三年七月三日、訴外賢雄が死亡し、その遺言執行者は笹川博美である(以下「被告遺言執行者」という。)。

3 被告遺言執行者は、本件賃貸借契約を認めていない。

4 よって、原告は、被告遺言執行者に対し、本件賃貸借契約確認の判決を求める。

二  請求原因に対する認否

1 請求原因1の認否は、第一事件の請求原因に対する認否の1及び2と同じ

2 請求原因2及び3の事実は認める。

第三  証拠(省略)

理由

(第一、第二事件)

一  被告適格について判断する。

成立に争いのない乙第一号証及び弁論の全趣旨によれば、本件土地は訴外賢雄の所有であったところ、同人は、公正証書遺言において本件土地を含む同人の財産の遺言執行者として笹川博美を指定し、同人が右遺言執行者に就職していることが認められる。

二  ところで、遺言執行者が就職している場合には、遺言執行者によって管理される相続財産については一切の権限を遺言執行者が有することになるから、右相続財産に関する訴えの被告適格を有するのは遺言執行者である。

したがって、本件土地については、被告遺言執行者が被告適格を有するから、被告博美、被告賢一、被告由美子は、被告適格を有しない。

三  よって、第一事件及び第二事件の訴えは被告適格を有しない者を相手方にした訴えであるから、右各訴訟はその余の点について判断するまでもなく、却下することとし、訴訟費用の負担については民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(第三事件)

一  請求原因1のうち、第一事件の1の事実は当事者間に争いがない。

二  請求原因1のうち、第一事件の2の事実について判断する。

1  成立に争いのない甲第三号証、第四号証の一ないし二三、第五号証(後記採用しない部分を除く。)、第六号証(被告博美、被告由美子との関係では、原告本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる。)、第七号証、乙第五号証、原告本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第一号証(原告作成部分を除く。)、原告本人尋問の結果(後記採用しない部分を除く。)によれば、次の事実を認めることができる。

(一)  原告は、昭和六三年六月六日、訴外賢雄から、本件土地上の別紙物件目録記載の二の建物(以下「本件建物」という。)の贈与を受け、その際、本件土地につき普通建物所有目的で賃貸借契約を締結した。

(二)  右賃貸借契約以降、原告は、訴外賢雄に対し、本件土地の賃料として毎月金二万円を手渡しで支払った。

(三)  原告は、平成二年六月、訴外賢雄が入院したため、賃料を手渡しで支払うことができなかったため、同年六月分及び七月分の賃料合計金四万円を、同年七月二四日振り込み送金して支払い、以後の賃料も振り込んで支払うようにした。

(四)  平成二年一〇月二九日、訴外賢雄は、草川弁護士に右賃貸借契約について相談したところ、同弁護士から書面にすることを勧められ、同年一一月八日、賃貸借期間を昭和六三年六月六日から三〇年間とすることを合意し、右合意を含め、右賃貸借契約の内容を確認する書面である「確認書」(甲第一号証)を作成し、訴外賢雄は貸主として、右弁護士は立会人としてそれぞれ署名、押印した。原告は、右確認書の内容で賃借していることを承認している上、右確認書には原告名も記載され、その名下に押印もされている。

(五)  右確認書を作成後、原告と訴外賢雄は、本件土地の賃料を同月から一か月金三万円にし、平成三年五月から一か月金三万五〇〇〇円とする旨合意したため、原告は、本件土地の賃料として、平成二年一一月分から金三万円を支払うようになり、平成三年五月分からは金三万五〇〇〇円を支払っている。

2(一)  原告は、本人尋問及び甲第五号証において確認書(甲第一号証)の原告の署名は原告自身がした旨供述するが、成立に争いのない乙第六号証と対比し採用できない。しかし、確認書は訴外賢雄が署名し、弁護士が立会人として署名していることから、その内容は信用できるものと認められ、右確認事項が虚偽であることを認めるに足る証拠はない。

(二)  右1の認定に反する乙第七及び第八号証の記載部分並びに被告博美の供述部分は右認定及び反対証拠と対比し措信できず、他に右認定を覆すに足る証拠はない。

三  請求原因2及び3の事実は当事者間に争いがない。

四  よって、第三事件の原告の請求は理由があるから認容し、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(別紙)

物件目録

一 土地

所在 東京都調布市調布ケ丘弐丁目

地番 参壱番壱

地目 宅地

地積 二二八・〇九平方メートル

二 建物

所在 東京都調布市調布ケ丘弐丁目参壱番地壱、同参壱番地弐〇

家屋番号 参壱番壱の壱

種類 居宅

構造 木造瓦葺弐階建

床面積 壱階 六六・壱壱平方メートル

弐階 弐六・四四平方メートル

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